「今の防水業界がこれでいいのか」「いい仕事をすること、社会的貢献をすることと、防水工事で利益をあげることは両立すべきだ」と考えるあなたに!

「別府マンション事件」最高裁判決で奈良氏が緊急報告

「別府マンション事件」最高裁判決で奈良氏が緊急報告

NPO法人リニューアル技術開発協会は1月24日、東京都江東区の古石場文化センターで恒例の新春情報交換会を開催した。
報告テーマは、超高層リニューアルの「見える化」管理手法の実践報告、超高層マンション アルミ手摺支柱足元劣化の中間報告、発注者側から見た施工品質管理、東日本大震災ボランティア活動報告など。

奈良氏は建築リフォームの専門誌で同テーマの記事を執筆しており、当日はこのコピーを資料として配布した。
報告の概要は次とおり。(記事の詳細は「月刊リフォーム 1月号」をご覧ください。)

裁判の経緯を報告する奈良利夫さん
裁判の経緯を報告する奈良利夫さん

「別府マンション事件」とは

平成8(1996)年賃貸マンションを丸ごと買った原告が、ひび割れなどの瑕疵があることを理由に、設計・監理者と施工者を被告として、損害賠償を請求して訴訟した。まず、大分地裁の判決があり、福岡高裁判決、さらに最高裁の差し戻し判決、福岡高裁の再判決、そしてこの最高裁の差し戻し判決と続き、15年を超える長期の裁判になっている。長期に及んでいる理由には、この判決が及ぼす社会的な影響が大きいことが関係している。

7月21日の最高裁の判決(以下7.21判例)は差し戻しである。しかし、その理由が建築業界に衝撃を与えるもので「別府マンション事件」と呼ばれた。この裁判では瑕疵の定義についても争われていたが、瑕疵に関する部分の判決理由は以下のとおりである。

「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」とは、居住者等の生命、身体又は財産を危険にさらすような瑕疵をいい、建物の瑕疵が、居住者等の生命、身体または財産に対する現実的な危険をもたらしている場合に限らず、当該瑕疵の性質に鑑み、これを放置するといずれは居住者等の生命、身体又は財産に対する危険が現実化することになる場合には、当該瑕疵は、建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵に該当すると解するのが相当である。

さらに具体的に、これを放置した場合に、例えば、外壁が剥落して通行人の上に落下したり、と瑕疵を具体的に例示している。(下線部は判決理由から引用)

7.21判例によれば、外壁の剥落が生じると、設計・監理者と施工者には損害賠償責任があるが、それだけではなく、剥落する恐れのある部分を放置した場合も、その補修費を損害賠償する責任がある。

もし、剥落が生じると、設計・監理者と施工者は、その補修費、落下物による人身事故の場合の怪我の治療費、慰謝料、あるいは物損事故の場合の弁済費用など、一切の費用を損害賠償する責任がある。

また、外壁に「浮き」があれば、剥落防止の措置としての補修費を損害賠償しなければならない。

建物の所有者は、損害賠償請求にあたって、設計・監理者と施工者に過失などの不法行為があったことを立証する必要がないと解される。7.21判例は、どんな理由があろうとも、外壁の剥落は社会的に許容されないと判断した。

タイル外壁の剥落

タイルが剥落する場合、タイルだけが剥落する場合と、下地モルタルが一緒に落下する場合がある。

タイルとモルタルが一体となって剥落する原因は、これまで長い間、下地の目荒し不足など、施工上の問題として片付けられてきた。しかし、最近は躯体と仕上げ層の温度差および湿度差で生じる、繰り返しのディファレンシャルムーブメント(相対ひずみ)による接着力の低下が主原因と考えられるようになっている。

日本建築学会大会などで発表されている複数の研究発表論文によれば、一般的な方法で張り付けたタイルは、温冷繰り返し試験で「浮き」が再現されている。張り方により差があるにしても、何千回で生じるか、あるいは何万回で生じるかの差にすぎない。つまり、一般的な方法で張ったタイルは、いつかは「浮き」が生じる。「浮き」はディファレンシャルムーブメントにより進行する性質があり、やがて剥落することがある。

7.21判例は新たな判例となったが、「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」があれば、設計・施工者の不法行為であり、損害賠償の責任を負うべきであると判断している。この瑕疵に、これを放置するといずれは居住者等の生命、身体又は財産に対する危険が現実化することになる場合、も含まれるとの判断もある。

タイル張り面の「浮き」は、放置するとやがて剥落する可能性があると推測することに、建築関係者に限らず誰も異論はないであろう。「浮き」は、これを放置するといずれは居住者等の生命、身体又は財産に対する危険が現実化することになる場合、に該当する。
わが国ではあまり知られていないが、東京大学大学院・松村秀一教授によれば、スイスでは外壁タイル張りを法律で禁止している。モルタルで張り付けたタイルは剥落して危険と認識されているのである。

7.21判例を分譲マンションの場合として考えると、外壁のタイルなどの「浮き」がある場合、管理組合は、これを補修する費用を販売者および設計・施工者に対し、損害賠償請求することができると解される。
分譲マンションの所有者である管理組合にとって、売買契約の当事者である販売者に不法行為による損害賠償責任があることは当然のこととして、契約関係のない設計・施工者に対し損害賠償請求ができるかどうかが争点になるが、この裁判では所有者が契約関係のない設計・施工者に対して、不法行為による損害賠償請求ができると判断されている。

福岡高裁は2004年12月16日の判決で、設計・施工者に不法行為がある場合を「違法性が強度である場合」に限定した。しかし、上告審で最高裁は2007年7月6日の判決により「違法性が強度である場合」に限定できないとして福岡高裁に差し戻した。

「違法性が強度である場合」という表現の強度とは、構造耐力的な意味の強度ではなく、単に強いという意味であり「違法性が強い場合」といい換えることができる。

この最高裁判例によれば、違法性が強くなくても不法行為がある場合、分譲マンションの所有者である管理組合は、契約関係のない設計・施工者に対し損害賠償請求ができると解されるのである。

タイル張り仕上げのビルやマンションを私たちは大量に建設してきた。タイル張りの外壁は、適切なメンテナンスを行いながら剥落の危険がないように維持する必要があるという認識は、社会通念になっているといえる。

7.21判例は、設計・施工者には「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」がないようにする注意義務があり、これを怠る不法行為を犯さないことを要求している。さもなければ、損害賠償の責任を負うべきであると解される。

参考「別府マンション事件」最高裁判決(平成23年7月21日)

「別府マンション事件」最高裁判決(平成23年7月21日)

主    文
原判決を破棄する。
本件を福岡高等裁判所に差し戻す。

理    由

上告代理人幸田正弘、同矢野間浩司の上告受理申し立て理由第2について
1 本件は、9階建ての共同住宅・店舗として建築された建物(以下「本件建物」という。)を、その建築主から、Aと共同で購入し、その後にAの権利義務を相続により承継した上告人が、本件建物にはひび割れや鉄筋の耐力低下等の瑕疵があると主張して、その設計及び工事監理をした非上告人Y1並びに建築工事を施工した非上告人Y2に対し、不法行為に基づく損害賠償として、上記瑕疵の補修費用相当額を請求する事案である。なお、本件建物は、本件の第1審係属中に競売により第三者に売却されている。

2 第1次控訴審は、上記の不法行為に基づく損害賠償請求を棄却すべきものと判断したが、第1次上告審は、建物の建築に携わる設計・施工者等は、建物の建築に当たり、契約関係にない居住者等に対する関係でも、当該建物に建物として基本的な安全性が欠けることがないように配慮すべき注意義務を負い、設計・施工者等がこの義務を怠ったために建築された建物に上記安全性を損なう瑕疵があり、それにより居住者等の生命、財産が侵害された場合には、設計・施工者等は、不法行為の成立を主張するものが上記瑕疵の存在を知りながらこれを前提として当該建物を買い受けていたなど特段の事情がない限り、これによって生じた損害について不法行為による損害賠償責任を負うというべきであって、このことは居住者等が当該建物の建築主からその譲渡を受けたものであっても異なるところはないとの判断をし、第1次控訴審判決のうち同請求に関する部分を破棄し、同部分につき本件を原審に差し戻した(最高裁平成17年(受)第702号同19年7月6日第二小法廷判決・民集61巻5号1769頁。以下「第1次上告審判決」という。)。

これを受けた第2次控訴審である原審は、第1次上告審判決にいう「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」とは、建物の瑕疵の中でも、居住者等の生命、身体又は財産に対する現実的な危険性を生じさせる瑕疵をいうものと解され、非上告人らの不法行為責任が発生するためには、本件建物が売却された日までに上記瑕疵が存在していたことを必要とするとした上、上記の日までに、本件建物の瑕疵により、居住者等の生命、身体又は財産に現実的な危険が生じていないことからすると、上記の日までに本件建物に建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵が存在していたとは認められないと判断して、上告人の不法行為に基づく損害賠償責任を棄却すべきものとした。

3 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は次のとおりである。

(1) 第1次上告審判決にいう「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」とは、居住者等の生命、身体又は財産を危険にさらすような瑕疵をいい、建物の瑕疵が、居住者等の生命、身体または財産に対する現実的な危険をもたらしている場合に限らず、当該瑕疵の性質に鑑み、これを放置するといずれは居住者等の生命、身体又は財産に対する危険が現実化することになる場合には、当該瑕疵は、建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵に該当すると解するのが相当である。

(2) 以上の観点からすると、当該瑕疵を放置した場合に、鉄筋の腐食、劣化、コンクリートの耐力低下等を引き起こし、ひいては建物の全部又は一部の倒壊等に至る建物の構造耐力に関わる瑕疵はもとより、建物の構造耐力に関わらない瑕疵であっても、これを放置した場合に、例えば、外壁が剥落して通行人の上に落下したり、開口部、ベランダ、階段等の瑕疵により建物の利用者が転落したりするなどして人身被害につながる危険があるときや、漏水、有害物質の発生等により建物の利用者の健康や財産が損なわれる危険があるときには、建物の基本的な安全性を損なう瑕疵に該当するが、建物の美観や居住者の居住環境の快適さを損なうにとどまる瑕疵は、これに該当しないものというべきである。

(3) そして、建物の所有者は、自らが取得した建物に建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵がある場合には、第1次上告審判決にいう特段の事情がない限り、設計・施工者に対し、当該瑕疵の補修費用相当額の損害賠償を請求することができるものと解され、上記所有者が、当該建物を第三者に売却するなどして、その所有権を失った場合であっても、その際、補修費用相当額の補填を受けたなど特段の事情がない限り、一旦取得した損害賠償請求権を当然に失うものではない。

4 以上と異なる原審の判決には、法令の解釈𠀋を誤る違法があり、この違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。論旨は、上記の趣旨をいうものとして理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、上記3に説示した見地に立って、更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。

よって、裁判官全員一致の意見で、主文の通り判決する。
(裁判長裁判官 金築誠志 裁判官 宮川光治 裁判官 櫻井龍子 裁判官 横田尤孝 裁判官 白木 勇)

この記事掲載準備をしているうちに、奈良氏より「最高裁から差し戻された福岡高裁が平成24年1月10日に再々判決を下した。」と連絡があった。

1.10福岡高裁判決は、原告の3億5084万円の損害賠償請求額に対し、一部を認めて、被告に3822万円の支払いを命じた。しかし、平成15年2月24日、一審の大分地裁判決は7400万円の支払いを命じていたから、これに比べるとおおむね1/2である。

そして地元福岡市の法律事務所が次のようにホームページで速報しているそうだ。
 

欠陥建築訴訟の福岡高裁判決―平成24年1月10日、福岡高裁第1民事部(古賀寛裁判長)は、別府マンション事件について判決を言い渡しました。別府マンション事件は、事業用のマンションを購入した所有者がマンションに床や通路のひび割れなど多くの欠陥があったことを理由に、契約関係にはない建築業者や設計者に不法行為責任を追及している訴訟です。

福岡高裁民事1部、建物の多数の欠陥のうち、床スラブのひび割れも一部、B棟片持ち梁の耐力不足、配管スリーブ貫通孔の強度不足、設備の瑕疵の一部だけを「建物の基本的な安全性が欠ける欠陥」であり、設計者や施工業者に過失があると判断しましたが、主要な欠陥である通路や床のひび割れの欠陥性を否定し、請求額3億5084万円のうち3822万円だけの賠償義務を認める内容でした。1審判決からも後退する、実質敗訴に近い内容です。

判決の内容を検討すると、片持ち梁の耐力不足とひび割れの発生位置が一部で一致しないことを理由に耐力不足全体について「建物の基本的な安全性」を損なっていることを否定したり、建築業者の個別の過失を立証できていないと判断しています。110㎝の高さが必要な外部階段の手摺りが70cmしかないことについては、「70cmといえども一概に危険とはいえない」と判断するなど、乱暴な結論が目立ちます。

判決は冒頭で、①最高裁判決は建築基準法違反をそのまま当てはめるのでなく、基本的安全性の有無について実質的に検討するのが相当としている、②瑕疵担保ではなく不法行為を理由とする請求では、瑕疵を生じるに至った業者らの故意過失の立証が必要であり、過失については瑕疵を回避する具体的注意義務、及び、これを怠ったことについて立証がなされる必要がある、と述べていますが、今回の判決は、建築について素人の裁判官が自分勝手に「建物の基本的な安全性」を判断することの危険性や、欠陥現象の存在以上に業者の具体的な過失行為の特定を被害者に求めることの不当性を端的に示しています。

後半の分析は「リフォーム2月号」に掲載予定との事。

2012/02/15(水) 00:00:00|  |

powered by Quick Homepage Maker 4.8
based on PukiWiki 1.4.7 License is GPL. QHM

最新の更新 RSS  Valid XHTML 1.0 Transitional